スパイキーだけの裏話!? ヒマラヤ水晶コラム集
最近流行のヒマラヤ水晶。 ではヒマラヤ水晶のどこまでをご存知ですか? ここでは12年のキャリアだからこそ知るヒマラヤ水晶の裏話や面白話をご紹介いたします。
【 コラム01 】カットされたヒマラヤ水晶の判別は可能か?
最近では実店舗のほうに「ヒマラヤ水晶を買った」といってブレスレット等を持ってきて「本物」かどうか、ということを尋ねられることがございますので、こんなお話をご紹介させて頂きます。
透明のヒマラヤ水晶に関してですが、既存のものをヒマラヤンかどうか見分けるのは至難の技といえます。 ヒマラヤ水晶は加工しても独特の軟質な照りが残ります。 表面がテカテカなのではなく内部からの美しさが光ります。 また、ヒマラヤ水晶特有ですが、透明なのに黄色みやピンクみを帯びたほんのり有色に見えるのも特徴です(この特徴は主にガネーシュ産の高温下でゆっくり生成した水晶に現れます) しかし水晶原石自体が違えば、仕上がりも雰囲気も変わってきます。 この「色み」もヒマラヤ水晶判別の心強い手立てというわけではありません。 また、カット工房ではひとつひとつ手で削っている為、大きさや形状も各々若干違います。 ビーズ珠などは、よくみるとサイズもばらばら、形も厳密には○で無かったりします。 ドリル穴周辺に至っては、経験の浅い技師が貫通作業を行うと、剥離だらけであったりします。 ひどい時は30%程度が商材にならない場合もございます(これは我々にはかなり手痛いのですが…) 良くも悪くも、サイズのばらつきやドリル穴周辺の剥離などは、ネパールの技師たちの経験不足を物語っておりますので、少しの判断材料の足しにはなるでしょう。 また、下記で記述するタンブル機によってビーズの通し穴まで研磨されている丸玉は、タンブルにかける際に入れる黄色い研磨剤と鉄分がビーズ穴に残る事がございます。 この工房のものは黄色い研磨剤が残っている事が多く、「黄色い研磨剤」はひとつの有力な判断材料となるとスパイキーでは考えております。
上記の通り「照りや色み」「削り方」「黄色い研磨剤の残り」などでヒマラヤンと判別できるものもありますが、削る原石によってまちまちですので一概には言えません。 ある程度の判断はつきますが、100%確実な事は言えないというのが実情です。
現地でも自称ヒマラヤ水晶の透明玉が出回っておりますが、その他に自称ヒマラヤ産のローズクォーツやスモーキークォーツ、アメジストのカット加工品(丸玉やカボション、ガネーシュ像等)を確認しております。 緑泥玉や角閃石玉、ドラバイトなどはヒマラヤ水晶の特徴が如実に表れやすいのでいわゆる「自称」や紛い物は少ないといえるでしょう(余談ですが緑泥玉を初めて現地で削ったのも当店です。 最初は業者にもカット工房にも緑泥入りなんて綺麗に出来るわけがない、と反対されたのを覚えております) 現地の市場で容易に手に入るような既存の丸玉等はヒマラヤ水晶とは少し考え難いです。 なぜならば市場に流れるほどネパール産のヒマラヤ水晶のカット加工の生産規模は大きくなく、注文数だけ注文者に流れる仕組みとなっているからです。 他の業者さんにせよ、信頼のおけるところはすべて現地で「買付け」ているのではなく、現地で注文を行っております。
現状で言えることは、信頼の繋がりにしか真雁の拠り所が無いという事です。 皆様の判断で信頼のおける業者を見つけて頂きたく思い、当店もその選択のひとつとなるようならば幸いです。
【 コラム02 】加工工房の規模と釣り合わぬヒマラヤ水晶の絶対数
上記「カットされたヒマラヤ水晶の判別は可能か?」に関連して現地密着型のこんなお話を執筆しました。 最近オリジナルブレスレットの制作やパワーストーンブレスレットの流行りで、どこでも見かけるようになった「ヒマラヤ水晶」の丸玉ビーズですが、どうしても腑に落ちない数字がございます。 現地の工房の規模と出回っているヒマラヤ水晶の数が全く釣り合わないのです。 最初に結論から言いますと、現在工房がフル稼働したとしてドリル穴まで研磨されている最高質の丸玉を作った場合、一か月に仕上がる数は2キロ程度です。 8.5mm玉が0.8グラムから1.0グラムですので、数にすると8.5mm玉で2000玉ということになります。 ブレスレット一本を作るのに20玉から25玉を必要とした場合、2000玉で出来るブレスレットの数は100個に満たない事になります。 では日本中に出回るヒマラヤ水晶は何なのでしょうか。
現地に商業規模として運営できるカット工房が出来たのは2003年2004年頃だったと記憶しております。 最初は工場長も含めて3,4人規模だったのが、今では若い技師達9人が従事しております。 それ以前は個人ベースで小規模な機材を持ってファセットカットや丸玉加工、そして彫刻を行っておりました。 そんなカット工房も今では3つ4つに増えたと聞きますが、実際に大規模に稼働して丸玉ビーズを大量に作れるのは当初からの1つの工房のみです(私の知らぬ間に増えていたら申し訳ございません)。 この工房では近年タンブリング機材を入れましたので、丸玉のドリル穴まで研磨することが可能になっております。 タンブル機でドリル穴まで研磨する場合は3つの工程が必要となります。 1つの工程につき、約3日から4日間タンブル機を回したまま放置しなければなりません。 当然のことながらタンブル機に入れることのできる量にも限りがありますので、ドリル穴を研磨したタイプの丸玉を作るには膨大な時間と電気が必要となります。
追い打ちをかけるようにカトマンズは深刻な電気不足です。 水力発電が主な電力元であるネパールでは乾季となる冬場は都市機能が麻痺するほどの停電となります。 1月2月頃の停電は一日当たり16時間、11月12月3月4月5月頃でも8時間から12時間の停電となります。 この間はタンブル機もフル稼働できませんので、月あたり1キロに満たない数量の生産となります。 また、冬季には発電機で電力を補わなければならなくなり、余分に動力料を払っているのはご存知でしょうか。 まるで飛行機の燃油代のようですが…これがカトマンズにおけるカット工房の現状です。
この工房は日本のみならず世界的なヒマラヤ水晶のブームもあり、只今(2010年現在)大変混みあっております。 混雑も考慮の上で、タンブリング機にかけた丸玉が月あたり1000~2000個程度しか出来ないのだとしたら、只今世の中に溢れている「ヒマラヤ水晶」の丸玉及びにブレスレットはどこからやってきてるのでしょうか(インド産は除く)。 例えば当店は古くからの仲でもありますので、かなり優遇してもらっておりますが、一か月に200玉程度が仕上がるか仕上がらないかです。 これが絶対数が釣り合わない謎です。
【 最高質の丸玉とは? 】
ここで余談になりますが、質のよい透明ヒマラヤ水晶の丸玉ビーズとはどのようなものでしょう? 敢えて当店のものが最高の質であると仮定するのであれば、それは1)透明度が高く霧や気泡、内部クラックが極端に少ない、2)とろみのある照り艶がある、3)表面研磨による輝きの強さ、4)そしてドリル穴の研磨という4点でしょう。 最高質の丸玉は、セカンドクオリティの犠牲(!?)の上に成り立っております。 左の写真が最高質からはじかれたセカンドの玉たちなのです。 これだけ多くの玉たちが最高質から外れて廉価で売りに出されます。 これらセカンドは1)内部に靄やクラックが見られる、2)照りが弱い、3)緑色の研磨剤が多く残っている、4)ドリル穴が研磨されていない等の点が挙げられます。 セカンドクオリティは最高質の月あたりの生産量(1000~2000玉)の中には入っておりません。 ドリル穴研磨もありませんので、仕上がりはドリル穴研磨のものと比べると半分以下の日数で終わります。 お手元のヒマラヤ水晶、本当に最高の質ですか?
【 コラム03 】インド産だらけ?彫刻系のヒマラヤ水晶
上記2つのコラムでカット加工された「ヒマラヤ水晶」の「本物」がいかに数少ないかをお分かり頂けたと思います。 では、もっと数が少なく、本来では売られる事が難しいはずの彫刻系ヒマラヤ水晶に関するお話を一つ致します。 まずは前提として、「インドのヒマラヤから来たヒマラヤ水晶は、ヒマラヤ水晶か」という議論は置いておくことにしましょう。 ここで解説しております彫刻系インドの水晶とは、「インドからすでに既製品として来た水晶」という意味であり、インドのヒマラヤ産なのかそうでないのかはわかりません。 それらインドからやってくる水晶既製品とは主に水晶バジュラやガネーシュ像、ブッタヘッド、クリスタルシンギングボールや大きな丸玉など、比較的大きなものとカービング(彫刻)を施したものの事です。 これらは現地マーケットで公然と「ヒマラヤ水晶」として売られておりますが(もしくはネパールで売られている為、ヒマラヤ水晶だと思いこまれているものです)、私の個人的な私見ではそれらの9割以上がネパールのヒマラヤで採掘され、カトマンズで彫刻されたものではありません。 これらの彫刻水晶の多くは、照りや輝きが弱く、白んでいる水晶が多いうえ、やはりグラム辺りの単価もかなり安いといえます。 また、それらの彫刻は廉価なわりに優れており、良くも悪くもネパールの多くの職人を凌ぐ技術の高さを持っている職人たちに彫刻されたのがわかります。 ※マルカバスターやオムの文字が刻まれたもの、簡単なフラワーカービング(蓮などの花の形をしたもの)、単純なモチーフを描いたものや、簡単なカービングを施したものなどはネパールの工房でも制作しているのを多く確認しておりますが、それらも基本的には受注生産であり、現地市場の店頭にはあまり並びません。
ヒマラヤ水晶のガネーシュ(ガネーシャ)を例にとってみましょう。 まず、ネパールのカット彫刻師はまだ技術が高くないため、ガネーシュ自体がお世辞にも上手とは言い難いのです。 そのクオリティに見合わず高額な技術料を要求してきますので、結果として、あまり上手でないガネーシュでもかなり高額となります。 ネパール産ヒマラヤ水晶でネパールの工房で加工した場合、15グラムと仮定して当店が出す場合になんと3万円を越えてしまいます。 お写真がそれとなりますが、どうでしょう。 まるで良く見るガネーシュとは違いますね(インド版自称ヒマラヤ水晶ガネーシュの写真も数日のうちに追加します) そして上記コラムでも登場した、カトマンズっで唯一商業規模でできるカット工房では、現在ガネーシュをはじめとする手の込んだ彫刻品は稀の受注を除き、ほとんど作っておりません。 それは何故でしょう。 工場長曰く、「結局加工賃が高くなりすぎで売れやしないから辞めた。」とのことなのです。 水晶のバジュラやブッタ像等も然りです。 高額で業者が買い取ったとしても、結果として小売りベースで売れる事がないので、受注も無くなったと考えても良いでしょう。 写真にあるバジュラ(一番右)、これはガネーシュヒマールのヒマラヤ水晶をこの工房で加工したものです。 これを万が一、当店が引き取り、最終的に皆様にお譲りするならば、そのお値段は1万5千円前後になります。 左のバジュラがインドで加工と彫刻をされたバジュラです。 こちらは5−6千円で出せるはずです。
では、何故ネパールの工賃はそんなに高いのでしょうか。 ヒマラヤ水晶が高値なのは、産出量による希少性等は当然ですが、村人のいわゆる人件費(採掘した対価として彼らが提示する額)が多くを占めているのはあまり知られておりません。 ネパールは世界最貧国のひとつとされ、工賃や人件費が安いと思われがちですが、これが大きな間違いです。 もともと国際競争とは無縁であり、「少しでも安く」という企業努力は皆無といって過言でないお国ですので、工賃や人件費等は自国の基準のみとなります。 物価にもひどい歪みのある国ですから、ある部分では物価は非常に高いと言え、ある部分では物価は非常に安いと言えます。 例えば、カトマンズでは一回の食事で200円程度で定食が食べられると聞いたら、「なんて物価の安い国だ!」と思われるかもしれませんね。 これが違うのです。 現在カトマンズの人々の足となっている100-150cc程度のバイクですが、これは日本円に換算すると15-25万円程度で売られております。 200円で食事ができる国にしては非常に高額なものといえますので物価は高いも考えられますね。 それでも多くの人々がバイクに乗っているのですから、更なる物価の歪みが見えてきます。 この辺りは複雑な国情等も関わってきますから、詳しく書くときりが無くなりますのでまたの機会に…。
話を戻しますが、彫刻を現地工房で施したとして、「高いよ!この程度のものでその値段がしたら、売れやしないよ」とい言っても、競争市場が成立していないので、「しょうがないじゃん、この値段になってしまったのだから」で終わりなのです。 それに比べると世界基準でマーケットを開いているインドは技術も高くて豊富な人材を誇り、競争力をつけているわけですから、廉価でも比較的質の良い水晶彫刻品が出来るのは当然かな、と思います。
しかしここでネパールも負けっぱなしというわけにはいきませんので、ひとつ余談を。 一部の彫刻に長けたカット彫刻師が作る彫刻水晶は、今度は逆にインドのものよりも素晴らしい彫刻であるということです。 これらの彫刻師は仏師や銀細工師と同じ職人が切磋琢磨する地域の人々であることがほとんどです(ちなみに水晶のカット工房にいる職人達の多くは、職業職人ではなく、経営者・工場長のつてで連れてこられた親戚・血縁関係にある人であったり、同族の子であることがほとんどです) 私は彼らの作った迫力と繊細さを兼ね備えた水晶製の仏像も見た事がございますし、石や珊瑚などに仏像や彫刻を施させるととんでもなく精巧なものを作ります。 無論それらは本職の職人たちがつくるものですので、時間も非常に掛かり、市場にもなかなか出るものではありません。 当然お値段の方も飛んでもないですけどね。
【 コラム04 】カット加工による損失とは?
2010年9月仕入れ後の新着祭では ヒマラヤ産サファイアとアクアマリンの天珠型カットが大いに話題を呼びました。上記コラムにも記載の通り、カトマンズに天然石カット用の機材を運び込み、本格的なカット工房が出来たのはここ6-7年前の話になります。 それまでは現地の天然石や水晶の先駆者的な業者が数人、自宅に趣味程度に簡易なカット機材を導入し、インドの技術者を雇っていたり、インドの工房で加工を行う程度でした。(例えばその当初のものがゴシュナイトやトルマリン、ルビーサファイアのファセットカット等になります)
ヒマラヤ水晶の原石や原石ペンダントを売るだけでは限界がございますので、今やスパイキーをはじめヒマラヤ水晶業界においてもカット加工というのは重要性が増すばかりとなっております。
しかしお世辞にもカトマンズの工房のカット技術が向上しているとは言えず、それに輪をかけるように人材の流出(海外への出稼ぎ)が続いております。折角少しは技術が上がったカットのお兄ちゃん達が今回カトマンズに来てみればいないわけです。 「○○(名前)はどこいった?××(名前)はどこ行った?」とオーナーに聞くと「出稼ぎに出ていっちまったよ。」という毎度の答えが返ってくるのです。 技術の無い技師が削るヒマラヤ水晶丸玉なんかは酷いものです。 形はひん曲がっており、ドリル穴はセンターにありません。 挙句の果てにはドリル穴周辺が剥離だらけです。 時には20%程度の玉が使い物にならずに損失となるのです。 今や必須のカット加工は心配の種でもあるのです。 ですので現地滞在中は毎日工房に顔を出して監修するのです。
カット加工を施すと原石の70%が損失になる、とご存知でしょうか。 例えば左上写真の特大サファイア天珠型、これは26グラムの大きな原石から仕上がったのが9グラムです。 最高最強の青いアクアマリンは 82グラムの原石から4つの天珠型、合計26グラムが削れました。 どうでしょう、まさに約30%が商品、70%が損失です。 原石がいびつな形であったりクラックが多くなると、損失は更に大きくなります。 中央写真の原石はバイオタイト入りの原石となりますが、 62グラムの原石からカボションとしてとりだせたのは5つ、合計15グラム分でした。 このケースでは約25%が商品、75%が損失という事になります。 削る形状により損失は変わってきますが、丸い形状(カボション、丸玉、天珠etc.)は大まかにこんなものです。
ヒマラヤ水晶の丸玉を作る場合、原石を平たい板状にスライスカットします。 それらにマーカーで8mm、10mm等の正方形を方眼紙状に線引きします。 つまり四角いサイコロをいくつも作るのです。さらにサイコロの角を取り、また角を取りで丸くしてゆきます。そして最終的に回転ブレードで研磨、さらに細かく研磨してゆきます。
角を取った際の「かど」部分はかどが大きければ小さい丸玉や小さいカボション、もしくはさざれとして使うことができます。 しかし研磨されて粉となりゆくものは損失以外の何物でもありません。
ということで大まかに言うとカットして原石の1/3になるわけですから、カットしたものは原石の3倍以上の売値となる事になります。 例えば100グラムの原石が1000円であった場合、その原石をカットすると約33グラム、それでカット加工費等を加味すると 33グラムのものを1000円以上で売らばければならない計算になります。 あくまでもこれは大げさかつ単純計算であり、現実の大概のケースはこうではありません。まずカットに回す原石はほとんどの場合、ダメージのあるものです。 つまり原石としての価値に乏しく、原石を扱う業者や村人にとっては安くしても売ってしまいたいものなのです。 アクアマリンもそうです。 ダメージがあればいくら色が綺麗でも原石としての価値は著しく下がります。 そのようなものが「ダメージ無し原石」より安いグラム単価で計算され、それがカットされゆくのです。
ということで一概にカットをすると原石の3倍の値段がつく、というわけではないのですが、 カットをすることにより大きな損失が生じ、それら損失も売値の中に入っている ということを念頭に置いて石コレクションをすると良いかと思います。意外と知らない裏側の世界。でもそれを知ると美しい丸玉が大きな犠牲のもとに作られているとわかり更に愛着が湧くのかもしれません。
※上記写真はガーネットの原石を涙型に加工研磨しているところです。
【 コラム05 】ヒマラヤ水晶の「本物」と「偽物」って何だ?~ガラスと合成品と天然水晶の判別~
とにかく「このヒマラヤ水晶は本物ですか?」という質問が多い。 ウェブサイトを訪れるお客様がどのような検索ワードによって辿りついたか、という事はアクセス解析によって確認する事が出来るのですが、「ヒマラヤ水晶 本物」「ヒマラヤ水晶 偽物」という検索によって当サイトに辿りついて下さった方は多いかと思います。 当然の事ではありますが、それほどまでにヒマラヤ水晶が「本物」なのか「偽物」なのか、というのは重要な関心事なのです。 では何が本物で何が偽物だか、よく考えてみればそこから疑問が生じると思いませんか? 水晶の偽物とは何でしょう。 ヒマラヤ水晶の偽物とは何でしょう。 上記コラムやヒマラヤ水晶の解説においても真雁の記載をしておりますが、ここでさらに詳しくわかりやすくまとめてみました。 下記から続く2つのコラムをご覧になってお手元のヒマラヤ水晶がどの「本物」なのか、どの「偽物」なのか確認してみて下さい。
1)まずはそれがまずはそれが水晶(石英)かそうでないか ~水晶とガラスの違い~
ヒマラヤ水晶云々の前に、まずはそれが水晶かガラスであるか、はたまた樹脂製品やプラスチック製品かどうか、と言う事で水晶が「本物」か「まがい物」かが決まります。 ここでは敢えてプラスチックや樹脂製品へ時間を割くのはやめておきました。 恐らくそれは悩むまでも無く、少しの経験で判断が出来るかと思います。 また、天然の美しい6角柱状の結晶を持つ水晶も判別がつきやすいといえるので、ここでは除外しましょう。 特に水晶の真雁において皆様を悩ませるのがカット加工品。それが「ガラス玉」なのか「水晶玉」なのか、ではないでしょうか。 「この水晶は偽物でした」「偽物を掴まされた」という場合、往々にしてガラス玉の事を指しているかと思います。 ではどうしてそれがガラス玉だとわかりましたか? わかっていたならば騙されませんよね。 実は「ガラス」にも複数ございまして、一般的に「ガラス」という時のガラスはソーダ石灰ガラスといわれるものです。 廉価であると共に、加工性に富み、多用途に使われています。 このガラスは化合物であり、我らが水晶の成分と同じ二酸化ケイ素が約7割、その他に炭酸ナトリウムや炭酸カリウム、炭酸カルシウム、更に数パーセントの酸化マグネシウムや酸化アルミニウムを含みます。 モース硬度も4.5-6となり、衝撃に対して割れやすいのです。 つまりこれは水晶とは似ても似つかぬガラスであり、雁物として販売するには少々お粗末といえるでしょう(丸く削ると緑色を帯びて見えるものも多いです、ラムネの中のガラス玉を思い出して下さい) この「ガラス」を水晶として売り付けられる可能性は低いです。
水晶のまがい物となるべく、厄介なのがガラスの中でも「石英ガラス」です。 ええ、名前に石英が入っているではないですか。
ガラスと水晶の違いを検索していれば「ガラスと石英(水晶)は同じものなのです」なんて解説も見かけますが、水晶に非常に近いガラスは石英ガラスのみです。 このガラス、100%二酸化ケイ素で出来ております。 つまり成分としては天然の水晶(石英)と全く同じわけです。 どのようにして作られたかというと天然の石英や珪砂(石英の粒や屑)を軟化点である1650度の高温に熱して融解し、再度凝固させたものなのです。 石英からできた石英、つまり石英ではないですか。 これが最も「天然水晶(石英)」の偽物となりうる、「石英ガラス」です。
ではこの石英ガラスと天然石英、違いは何処になるのでしょうか。 二者の決定的な違い、それは「結晶しているか結晶していないか」という事になります。 左記の解説図をご覧ください。 この図が結晶しているかしていないかの違いになります。 片方(左側)が美しく規則性ある分子配列なのに対し、他方(右側)は分子が無秩序に結合しているのがわかります(※こちらはウィキペディアに記載されていた図を加工して使用させて頂きました。 図が小さくて見難いかもしれませんが申し訳ございません) SiとOに法則性があり規則的な配列をしているのが鉱物である石英、即ち「結晶」であり、不規則な分子配列を持つものが非晶質のガラスなのです。 しかしこれはあくまで分子レベルの話であり、肉眼でこの分子構造が確認できるわけではありません。
そこで皆様が最も気になる事、判別は可能か?ということですね。 結論から申し上げますと、可能です。 一番信頼できる方法は鑑別所に持っていく事です。 非破壊による分光器および回折X線像検査で100%の確率で水晶(天然石英)かガラスかの判別が可能です。 しかしガラス玉と水晶玉の判別は素人レベルでも行えます。 「ガラス玉と水晶の違い」とでも検索してみて下さい。 髪の毛を使った屈折率(複屈折と単屈折)による判別方法から(皆様が最も知りたいビーズ程度の大きさの物では不可能ですが)、写真屋さんで手に入る偏光版を使った看破方法などが様々なページに記載されていると思います。
ガラスは「一定の化学組織・秩序配列を有した結晶体である鉱物」ではありません。 ガラス玉は確かに水晶の「偽物」といえるでしょう。
2)人工的に生成される天然のような水晶~オートクレーブ水晶~
ガラスは水晶の偽物、という記述に関しては異論が無いと思いますが、実はさらに厄介な「ニセモノ」があるのです。 次に紹介する「偽物」は驚くなかれ、自然で起こりうる現象や環境を人工的に創り出して生成した水晶なのです。 水熱法と呼ばれる合成方法は1890年代にイタリアで開発されました(ちなみに現在、人工合成水晶生産に置いて最も優れた技術と生産力を持っているのは我らが国、日本です) 水晶は今や観賞品やアクセサリーの枠を飛び越えて、工業用品や精密機械品に利用されているので、現在では合成水晶は大量生産されているのです。
さて、この人工合成ですが、非常に高温・高圧に保つことのできる鋼鉄製のオートクレーブ(圧力釜のようなもの)内部で水溶液中に結晶を成長させて生成します。 これは地殻内部で鉱物が析出するメカニズムと類似するものであり、非常に精巧な「人工結晶」を作る事ができるわけです。 結晶、つまり上記に登場したガラスではなく「結晶」なのです。 釜の規模や生成する水晶の大きさにもよりますが、人工水晶の生成には数十日から数百日と言われます。 自然界においては数千・数万という単位で成長するわけですから随分と早い成長といえるでしょう。 オートクレーブの原理は比較的単純なものです。 高温高圧に設定された釜の下部で石英の屑が溶液中に溶け始めます。 溶液が低温の上部に達して、上部に取り付けられたタネ板(小さな水晶の結晶)の上で珪酸が析出して結晶化を始め、下からの珪酸の供給が続く限り成長を続けるのです。 ※詳しくは他の専門書等をご覧ください。
では最大の関心事に話を移しましょう。 オートクレーブ水晶は偽物なのか? もはや驚く事ではないかもしれませんが、人工水晶は自然界で生成する状況を疑似して作る為、鑑別に出しても比較すべき値はすべて天然の物と同数値になります。 つまり比重も硬度も屈折率も同じ、X線検査も要を足しません。 だからといって同じものではない。 できれば天然が欲しいと思うのは当然ですよね。 ラベルに「人工」「天然」と書いてあれば問題ないのですが、中には人工を天然として売りたい悪質な業者もあるわけで…。
では人工生成の水晶の看破は不可能なのか? その質問を私が普段からお世話になっている鑑別所の鑑別師さんにも伺って参りました。 まず、肉眼での比較は可能か。 水晶がオートクレーブから出たての物は容易に判別が付きます。 人工の水晶はほとんどが工業用途であり、用途に応じた形で生成され、カットされます。 天然の美しい6角の結晶ではありませんので見た目で判断が付くでしょう。
しかしそのような人工物を「天然」として売る事はほとんどなく、最も気になるのは丸玉やビーズという事になります。 削られたものの肉眼での判断は非常に困難と言わざるをえません。 あくまで判断材料の一部ではありますが、人工の水晶は綺麗すぎる。 鑑別師の方が大きくて美しすぎる水晶は基本的に疑った方が良い、というほどなのです。 天然の水晶はいくら綺麗に見えても内部に微細な霧や靄、インクルージョン、クラックなどが見られます。 肉眼で確認できない場合、拡大鏡で見れば多くの場合、それら小さな天然の要素を発見する事ができるでしょう(※対して人工の水晶はパン屑状のインクルージョンが見られる事がございます) また、人工の水晶タネ板を使う為、タネ板が残ります。 タネ板が見えれば人工水晶ですが、タネ板をわざわざ残して削る事はありませんので、この判別方法は現実的ではありません。 人工の水晶はほとんどの場合、右巻きを使う事が多く、左巻きであれば天然の可能性が高くなります。 しかしこれも素人鑑別では判断は非常に難しいでしょう。 また鑑別師の話によりますと、ペンライトで光を通すと、縦に光の筋が伸びる現象が起こるとの事ですが、特徴的な光の動きを捉えるには経験を要しますし、それだけでの判断とは行かないようです。
以前はこのように看破も難しかったようですが、最近ではフーリエ変換赤外分光光度計によって人工石か否かの判別を行えるようになったそうです。 これによって赤外光の波長の分布をしらべれば、天然と人工では波長の分布に異なりがみられるのだそうです。 どうしても心配な場合はフーリエ変換赤外分光光度計のある鑑別所に依頼するしかありません。
ということで先の質問、「オートクレーブ水晶は偽物なのか?」に立ち返りますが、端的に言うなれば「偽物」なのです。 鑑別上の鉱物名では「天然クォーツ」と「合成クォーツ」に分けられます(※AGL基準の場合は、鉱物名:合成石、宝石名:水晶となります) 例えば、ダイヤモンド。 「合成ダイヤモンド」であれば、著しく価値は落ちますし、「なんだ、偽物か」となりますね。 人造物はイミテーション(模造品)に分類されるのです。 宝石・天然石に置いてはそれが自然の産物である、ということは非常に重要な事なのです。
水晶の偽物とは何か?というのを長々と記載しましたが、わかりやすく説明できましたでしょうか。 次項コラムでいよいよヒマラヤ水晶の偽物とは何か?に迫ります(次項コラムは2012年11月末頃掲載予定)