レア石・希少石解説と意味その2
現在取り扱い中のヒマラヤ圏外のレア石達。スパイキー店長の独自チョイスで好きな石でクオリティの高いものだけを仕入れております。商品解説には各天然石のちょっとした歴史や為になる面白小話を取り入れるようにしております(※一部専門的知識を要する部分には、専門機関の発行するの英字論文等を参照・和訳させて頂いております)
【アメトリン(水晶)】
またの名をボリビアニータ(ボリビア美人)、アメジスト部分の紫色とシトリン部分の黄色がはっきりと見て取れるバイカラー(2色)の水晶をアメトリンと呼びます。 「アメトリン」とはアメジスト(紫水晶)とシトリン(黄水晶)という両方の側面を持つという特徴から両の名前を合わせて作られた宝石名になります。 特にボリビア領土内のアナイ鉱山(Anahi)は良質のアメトリンを産出することで有名であり、この鉱山のものは別名ボリビアニータ(ボリビア美人)とも呼ばれるのです。 この世にも不思議で美しい石が歴史に登場するのは17世紀の話です。 当時そのボリビア周辺で勢力のあったアヨレオス族の女王がスペイン人征服者と結婚する際に持参した石がアメトリンだったと言われています。 アナイ鉱山の名前はこの王女様に由縁があります。 それが後々スペインを通してヨーロッパに紹介されることになるのですが、市場に登場するのはその後1980年代に入ってからです。 しかしその当初は余りに美しすぎる2色性に、それが天然であることが疑われ、1990年代にアナイ鉱山の全貌が明らかになるまでは数々の宝石学の権威さえも「アメトリンは通常天然の水晶に何かしらの人工的な処理が加えられたもの、もしくは完全な人工合成品である」と主張したほどなのです。
これまでは細々と隠れるように掘られていたアメトリンですが、その後ボリビアの企業が採掘権を得てアナイ鉱山の採掘が本格的に始まると、産出量は急増します。 「希少だ」「偽物(加工処理品・合成品)」が多い、などと言われがちなアメトリンですが、何とアナイ鉱山だけで月に5トンもの産出があるのです。 すぐに周辺地域にも同様の鉱山が発見され、ボリビア・ブラジル・パラグアイの国境周辺地域のボリビア領土内に40トンもの産出があるとの話です。 もちろん総産出量の中から質の悪い部分やカットによる損失等を除き、実際に商用になる部分は決して多くはありませんが、それでも希少であれども入手不可能な超希少ではない事がわかります。
さて、このアメトリンですが購入者を最も悩ませるのはその色の由来が天然か人工か、という事です。 端的に言うとすでに製品となっているものの場合、それを判断する手立ては今の鑑別技術にはありません。 その理由を述べる前に、アメトリンの色の原因を見てみましょう。 あまり詳細に解説すると長くなりますので、簡略化している部分もございますのでご了承下さい。 アメジストの紫色とシトリンの黄色は、共に天然の放射線を浴びることによって水晶結晶格子に入り込んだ鉄イオン(Fe)の含有によるものですが、鉄イオンの含有量と「価」の違いによってアメジストになるかシトリンになるかが決まります。 アメジスト部分の色を創り出すのは4価の鉄イオンFe4+であり、シトリン部分を作るのは3価の鉄イオンFe3+です(鉄分濃度はシトリン部分が最も濃いです) 天然の放射線により鉄イオンの含有量と電価がアンバランスな状態になっている事がアメトリンの成因です。 このように色の境界がはっきりと分かれるのは、シトリン部分とアメジスト部分がそもそも別々の結晶であり、それぞれが違う電価のFeや含有量を持ち、それらが融合・一体化して生成しているからなのです。 この現象が自然で起こることは非常に稀有なケースであり、アナイ周辺にしかアメトリンが産出しないのはアナイ周辺にしかこの現象を起こす特殊な環境が無いから、ということになります。 ※最近ではメキシコやインドでも産出が聞かれますが、規模は小さく成因も違うという事です。
産出した状態で透明度も高く美しい2色の結晶であるアメトリンですが、更に美しさを出す為に人工的な処理が行われることがあるそうです。 これは私が某宝石研究ラボで聞いた話ですが、まず放射線をあてることによりFe4+のアメジスト部分の色が濃くなり(厳密には放射線により一旦すべての部分が紫色に変わります)、その後400度以上の熱処理を行うとFe3+部分の黄色が現れるそうです。 つまり、無色透明の水晶をアメトリンに化けさせるわけではなく、もともとアメトリンの資質をもった石(鉄の含有がアンバランスな結晶)をより濃くすることしか出来ないそうです。 そしてこの放射線や加熱処理は、自然でも起こりうる事象を人工的に行っているだけなので、例えば色の濃いアメトリンの鑑別を依頼された際は、その発色が天然の「放射線」や「熱」由来なのか人工由来なのかは現在の鑑別技術では見分けがつかないのです。 何故ならば鑑別に使用する数値(硬度や組織成分、比重や屈折率、分散度等)は天然のものも人工処理が加えられたものも全く同じ値となるからです。 ちなみにJJA/AGLの定める宝石鑑別のルールでは、現在アメトリンに関しては色の「人工処理」や「天然」の記載の必要が無くなっております。 つまり機材の整ったプロの鑑別師でも100%確実な判断が出来ないからです。
【スパイキーパサルの取扱うアメトリン】
それではどこでアメトリンを買えばいいの? スパイキーパサルのものはどうなの? 率直に申し上げますと、当店の取扱うアメトリンは天然だと疑っておりませんが、それでも100%と言い切ることは出来ないという事です。 鑑別にも出しておりますが、前記の通り既存のものの人工処理の有無は調べることができません。 当店は海外での仕入れの際、天然や人工処理、合成品等がはっきりしている信頼できる業者と取引しており、アメトリンに至ってはカット加工前の原石も確認しております。 しかし例えば、カット業者が輸入する前に万が一にもカット業者の知らない所でボリビアやブラジルで処理が行われている可能性もゼロとは言い切れないからなのです(原石を見る限り焼かれたような形跡等はありませんでしたが) 前記の通り、アメトリンは産出時点ですでにかなり綺麗である事、実は産出量が多い事、そして当店の扱うアメトリンは綺麗ですが綺麗すぎない事(人工的な処理が加わったアメトリンは最大限に綺麗になり、特にシトリン色が濃くなります)を考慮すると人工処理が加わったとは考え難いと思っております。 もしそれでも心配な場合は、ボリビアやブラジルの産出から研磨加工、店頭に並ぶまですべて一貫して透明性のあるお店を探す事、しかありません。
余談ですが、アメトリンには多くの合成品も出回っております。 こちらはロシアのラボで生成されている人工水晶であり、月で最大300kgほどの生産が可能だそうです。 これらはファセットカットされて宝石になることが多く、ビーズ玉やカボションには合成品は少ないと思われます。 合成品か天然であるかは鑑別によって判定が可能ですので、お手持ちのアメトリンが心配な場合は鑑別に出してみて下さい。 当店のものには合成品はございませんのでご安心を。
【アメトリンの当店グレード基準】
☆☆☆☆☆(☆5) | 非常にはっきりと紫色部分と黄色部分が見られる天然のもの。 透明度と透過性も高く、内部に霧状のもややクラックもほとんど見られない。 この質のものの多くはファセットカットされて宝石となります。 |
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☆☆☆☆(☆4) | ☆5グレードに準ずるもの。 ☆5グレード同様に美しい紫色に美しい黄色がはっきりと見てとれる。 透明度透過性も非常に高い。 丸玉ビーズの最高質は☆4~4.5です。 また丸玉ビーズにおいては「ひとつの玉に2色見られる」というのが重要です。 特に半々になっているのが理想的。 よくアメトリン玉というとほとんどアメジストのもの、ほとんどシトリンのものを混ぜ合わせて一連でアメトリンといっていることが非常に多く見られます。 |
☆☆☆(☆3) | 上位2グレードに比べると若干色が薄くなる。 色が偏っていることもありますが、天然です。 |
☆☆(☆2) | 色が薄いもの、2色で無いもの(一連としてアメトリンのもの)、天然か合成品かわからないもの。 スパイキーでは扱いがありません。 |
☆(☆1) | ? |
※黒星マーク(★)は0.5です。 ☆☆☆★は☆3.5グレードとなり、3グレードと4グレードの中間です。
※スパイキー独自の基準と判断によるグレード分けです。 石のグレードには市場共通の分類があるわけではございませんので、他者・他店さんとのグレード分類とは差異が見られる場合もございます。
【アメトリンを身に着ける際の注意事項】
ひとつの石で2色を楽しめる、アメトリン。 もちろん身に着けて楽しみたいものです。 アメトリンは水晶ですので硬度7.5-8、表面は充分に強いといえます。 大きな衝撃でない限りは、割れや欠けに対しても丈夫であり、多少ぶつかる程度なら過剰に反応する必要はありません。 表面はガラスと同じようなものですので、汗や油・水が付いても拭き取れば問題ありません。※但しクラックからの浸透には注意。 しかしアメトリンの特にアメジスト部分に関しては光による退色が弱点となります。 アメジストは強い光(蛍光灯もNG)によって色が薄くなることがわかっております。 とはいえ、あからさまに色が抜けて真っ白になってしまうわけではなく、ゆっくり進行した場合は気が付かない程度でしょう。 身に着けている際の日光まで気にしていると楽しいはずのアクセサリーが楽しくなくなってしまいますので、保管の際は日光のあたる場所や光の強い場所、蛍光灯の下は避けるようにしましょう。 布でも掛けておいてあげたらよいかと思います。 |